|
奥丸山(2440m)は、槍ヶ岳から穂高連峰へ続く北アルプスの雄姿を間近にあおぐ展望台です。山頂は中崎尾根経由で槍ヶ岳への登山道の途中にありますが、主に雪崩を避ける冬山ルートで利用されることや、周囲の名だたる名峰群に囲まれて目立たないことから長らく不遇をかこっていました。
しかし、最近になって左俣谷のワサビ平への登山道ができ、右俣谷の槍平から周遊することが可能になったので、改めて山岳展望の日帰りトレッキングコースとして注目を集めています。
新穂高温泉から南岳をあおぐ右俣谷沿いに林道を進みます。
奥の白出谷で砂防工事が続いており、大型の工事車両が通過することがあるので、すれ違いに注意して歩きます。
西穂高岳から流れる小鍋谷の橋を過ぎると、穂高牧場の下をショートカットする登山道が分岐します。ブナの森をひと登りで、飛騨牛が放牧された穂高牧場を前にした穂高平小屋に出ます。宿泊や休憩のできる赤い屋根の小さな山小屋からは、槍ヶ岳から南岳、奥穂高ジャンダルムに至る槍穂高連峰の稜線をあおぎ、アルプスの少女ハイジの世界のようです。
さらに林道を進むと、左側に右俣谷と中崎尾根越しに笠ヶ岳が見え、柳谷を大きく巻くとシラビソやコメツガの針葉樹林帯に入っていきます。やがて奥穂高岳登山口分岐の標識が現れると、林道終点の白出沢に到着します。
ガレ場の白出沢をマーキングを拾いながら通過します。頭上を圧するように奥穂高岳の岩稜がそびえて迫力があります。白出沢の対岸からは本格的な登山道がはじまり、暗い針葉樹林帯を岩根を踏みながら小刻みにアップダウンを繰り返して進みます。涸れたブドウ谷とチビ谷を過ぎ、足元に右俣谷の渓谷を見下ろしながらゆるやかに登ると、大きく開けた滝谷に出ます。
滝谷は大キレット、北穂高岳から涸沢岳の飛騨側に切れ落ちた大岩壁で、「鳥も通わぬ」と称された日本を代表する岩場のひとつです。木橋のかかる滝谷のガレ場からは、雄滝とその上に滝谷ドームが荒々しい姿を見せています。
滝谷の新穂高側には森林の中にコンクリート製の滝谷避難小屋があり、槍ヶ岳側には滝谷初登攀をなした藤木九三のレリーフがはめ込まれた岩があって、レリーフの傍らからごんごんと澄み切った湧水が流れています。
滝谷を過ぎるとやや道が急になり、目前に広がる樹林帯の台地に向けてぐんぐん登っていきます。石畳の道から振り返ると滝谷避難小屋が小さく見え、その背後に滝谷の大岩壁と穂高連峰の稜線が競り上がっています。
ガレ場の南沢を過ぎ、もうひと上りすると、平坦な森林をゆるゆる進むようになり、やがて豊富な水が流れる沢を過ぎれば槍平小屋に到着です。
槍平は槍ヶ岳飛騨側登山道で唯一明るく開けた台地で、森林と草原が混じった気持ちの良い場所です。草原から穂高連峰をあおぎ、北アルプスの真っ只中にいることを実感します。時間が許せば、静かな槍平小屋で一泊してみてはいかがでしょうか。
槍平小屋を過ぎて、冷たい水が飲める山水をとおり、槍ヶ岳登山道と分かれてキャンプ指定地に入っていきます。右俣谷を渡る橋から樹林帯に入るとすぐに槍平神社の祠があり、道はいったんガレ場に出て石を踏みながら登ります。頭上には奥丸山の稜線が見え、すぐ近くに思えますが、ここからがしんどいところです。
ガレ場から右に曲がって尾根に取り付きます。コメツガやシラビソの根を手がかり、足がかりにして進むような急登りで、九十九折れの道を息をもつかせずぐいぐい高度を上げていきます。やがて尾根上に出ると、樹林の間から穂高連峰が姿を現し、ダケカンバの林に変わった頃から進行方向に槍ヶ岳の穂先が見えてきます。
足元が切れ落ちた砂地の尾根を慎重に渡って、笹原の斜面を斜めに登っていくと中崎尾根の分岐です。
さらに奥丸山頂上をめざして稜線を登ります。まだまだ急坂が続きますが、ぐっと開けた北アルプスの眺めに元気付けられながら高度を上げ、いくつか小ピークをすぎると森林限界からわずかに頭を出し、チシマザサとハイマツに囲まれた標高2440mの頂上に到着します。
|
|