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焼岳の数ある登山道のうち、南面の安房峠・中の湯温泉からのルートは、最も容易で眺めもよく、マイカー利用なら登山口までのアプローチも簡単です。
長らく焼岳噴火の影響で閉鎖されていましたが、安房トンネルの上に移転した中の湯旅館の手によって、新中の湯ルートが整備され、多くの登山者が歩いています。
一方、釜トンネル入口から歩く旧来の中の湯ルートは、水害で山道が流出したこともあり、現在は使われていません。
登山口→焼岳 2時間20分 / 焼岳→登山口 1時間30分 |
登山口は中の湯温泉旅館の屋根を見下ろす9号カーブあたりにあります。ここからは穂高連峰の吊尾根も見え、これからの登山に期待を抱かせるところです。
国道158号線を見下ろしながら進み、沢に出ると沢に沿って平坦な山道を行きます。唐突に、道端にひっくり返った乗用車の残骸が現れます。かつて国道のカーブを曲がりきれずに転落した車で、回収作業ができないので放置されたものです。トンネル開通前の「難所」といわれた頃の峠道の厳しさを彷彿とさせます。
やがて、目の前の斜面にジグザグを切っての急登が始まります。
周囲はひと抱えもふた抱えもあるようなブナの巨木が天を突く自然境で、息をつかせぬ登りに喘ぎながらも、ブナの森のやさしい緑が癒してくれる道です。倒木や巨岩を潜ったり、乗り越えたりし、樹林越しに望む安房山のアンテナ群がだんだん低く見えてくると、ブナ林が終わって亜高山帯の針葉樹林へ森林の様子も移り変わってきます。
この辺りから、登山道は火山地形特有の、一旦登って平坦地が現れ、また急な斜面になって、という緩急を繰り返すようになります。森に囲まれて、舟窪のようになった平坦地は自然の日本庭園のような趣があり、何ヶ所も木を横倒ししたベンチが設けられているので、思い思いに休憩を取ることができます。
やがて、頭上に樹林越しに焼岳の溶岩ドームがちらちらと覗くようになって、針葉樹林帯を抜け出し、ナナカマドの潅木林を行くようになります。森を抜け出した、周囲が開けた広場が、りんどう平、目の前に巨大な焼岳の双耳峰が姿を現し、二つの峰の中間からは、真っ白い水蒸気が立ち上るのが見えてすごい迫力です。
りんどう平で休憩をとったあと、少し進むと山の斜面が大きくえぐられた下堀沢の崩壊地に出ます。ここには旧中の湯ルートが上がってきていましたが、登山道が崩壊して通行止めになっています。
森林限界を抜け、目の前の溶岩ドームめがけて、下堀沢沿いに高度を上げていきます。右には霞沢岳が見え、振り返ると乗鞍岳が巨鯨のような山塊を横たえています。
登るにつれて、水蒸気を噴出す噴気孔が近づき、よい目標になります。稜線のコルに飛び出すと、眼下には緑色の水を湛えた火口湖があります。
コルから右に向けてトラバース気味に進むと、噴気孔の下を抜けて北峰下のコルに回りこみます。上高地や新穂高からの登山道とはここで合流し、あとは5分ほどの岩登りで、広くなった北峰の頂上に到着します。
北には槍穂高連峰から上高地、笠ヶ岳にかけての大パノラマが広がっています。
平湯温泉から国道158号線の旧道を行きます。アカンダナ駐車場を過ぎ、使われていない茶屋の建物が残る安房峠を越えて信州側に出ます。かつては大型バスやトラックが列をなした安房峠も、自動車トンネルが出来た現在では通る車も少なく、ひっそりと静まり返っています。
安房峠の国道158号線は、梓川からカーブごとに番号が付けられており、峠の頂上からでは12号カーブから順番に降りていきます。10号カーブ辺りに幅の広い路側帯があり、そこが登山者用の駐車スペースです。
シーズン中は、朝早くから車が連なるため、駐車する場所を見つけて、路側帯に邪魔にならないように車を置きます。
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