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飛騨と信州の境にそびえる御嶽山には、飛騨から濁河口、日和田口の2コース、信州から王滝口、黒沢口、開田口の3コースの登山道があります。
このうち、チャオスノーリゾートのゴンドラ夏運転をやめた日和田口と、昔ながらの雰囲気を残す開田口は道のりが長く、標高差も大きいため一般的ではありません。
御嶽教の信仰登山は信州側の王滝口、黒沢口を中心として発展し、シーズン中は白装束の講登山や一般登山者で賑わいます。いずれも標高2000m超の場所まで自動車道やロープウェイが整備されているため日帰りも可能で、3000m級の高山としては容易に山頂に立てます。
俗化しているとも言われる御嶽山ですが、メインルートから一歩奥に入れば、日本一のボリュームを誇る巨大な山塊だけに、手付かずの大自然を味わうこともできます。
御岳ロープウェイを使って黒沢口から剣ヶ峰を目指すコースをご紹介します。
飯森駅→女人堂 約1時間/女人堂→飯森駅 約40分 |
御岳ロープウェイスキー場のゴンドラに乗って飯森駅まで空中散歩を楽しみます。
スキー場斜面の上には巨大な御嶽山が横たわり、継子岳やアルマヤ天などのピークを連ねています。四の池から落ちる幻の滝も望めます。
振り返ると、木曽谷をはさんで中央アルプスが屏風のように連なり絶景です。飯森駅は標高2150m、剣ヶ峰まで標高差は900mほどです。
展望テラスのある駅舎を出て、左の樹林帯へ進みます。よく整備された遊歩道をやや下り勾配で歩いていくと、中の湯から上ってきた登山道と合流し、ここから本格的な登山道になります。
合流してすぐに、深い森の中にたたずむ7合目行場小屋があります。伝統的な御嶽山の講登山の山小屋で、力餅が名物です。小屋のすぐ脇には、小さな霊場と水行の場があります。
苔むした沢を渡り、8合目への斜面に取り付きます。周囲はシラビソやトウヒなど、亜高山帯の針葉樹が茂る巨木の森で、石根を踏みながらの急登はきついですが、そのうち開ける展望を思い描きながらがんばります。やがて樹高は低くなり、明るいダケカンバ林に変わります。
深くえぐれた赤土の道を直登すると、飯森駅から1時間ほどで森林限界に建つ8合目・女人堂に到着します。目の前にはナナカマドやハイマツの緑と、火山特有の赤い斜面が広がり、稜線まで手の届きそうな近さに見えます。秋には斜面がナナカマドの紅葉で染まり、ハイキング客で賑わうところです。
女人堂→剣ヶ峰 約2時間/剣ヶ峰→女人堂 約1時間30分 |
女人堂からは剣ヶ峰直登ルートと、三の池経由ルートが分岐しますが、ここでは剣ヶ峰へ向かいます。
ベンチのある広場で休憩したあと、霊神碑の立つ台地へひと登りします。急な尾根に延びる登山道が一望でき、頭上に覚明堂と石室山荘、そして剣ヶ峰が見えます。手にとるように見えながら、なかなか近づいてこないもどかしい道のりですが、焦らないように一歩一歩、赤茶けた火山灰の登山道を踏みしめて登ります。
ところどころに霊神碑が立ち、登山者が休憩しています。急傾斜地でもあり、足元が崩れやすい場所もあるので、特に下りの際はスピードが上がり過ぎないように気を付けましょう。
だんだん小屋が近づき、人の姿がはっきり分かるようになると、覚明堂の石垣下に出ます。左手の雪渓沿いに進むと小屋前を通過し、右手は小屋に入る道です。
赤土の斜面を乗り越えると、すぐ上に石室山荘があります。同じように山小屋の前を通過します。小屋のすぐ横に鳥居があり、そこから石段を上がると、二の池から続く稜線の道に飛び出します。
眼下に神秘的なトルコブルーの二の池の湖面が見え、振り返ると女人堂から上ってきた緑と赤の斜面、その下の深い森の中にロープウェイ駅の屋根があります。はるか下のスキー場の駐車場には車が光っています。
ここから剣ヶ峰へは、火山特有のざらざらした急登を約40分です。
頂上小屋と石垣の上に立つポールを目指して進んでいくと、小さな雪渓を越えて小屋の前に到着し、ここから最後の難関である93段の石段を上がると、広く整地されて霊神碑や社務所が並ぶ御嶽山3067mの山頂です。
剣ヶ峰→三ノ池 約1時間/三ノ池→剣ヶ峰 約2時間 |
黒沢口へは御岳山中の聖地でもある三の池を経由して周遊することができます。
登山道、あるいはお鉢めぐりの道で二の池本館の前に出、トルコブルーに輝く二の池と万年雪の光景を楽しんで下山にかかります。
二の池本館から背後のカルデラ平原・賽の河原までは、二の池新館経由のものなどいくつか道があって錯綜しています。岩間の急な段差を下って賽の河原に立つと、お花畑の点在する石ころの平原に、お地蔵さんや無数のケルンが立ち、布切れが風にはためいて一種独特の雰囲気が漂います。
ガスが出たり、悪天候の際は特に迷いやすい場所なので注意しましょう。ここは西の飛騨側へ傾斜しているので、人間の習性として下り方向に誘われると、カルデラ平原の端にかかる日本最高所の滝に出てしまい、戻るに戻れなくなるおそれがあります。
賽の河原から摩利支天の斜面を登り返すと、白龍教会の小屋があり、信州側に切れ落ちた断崖から足元に深緑色の三の池を見下ろします。ここから摩利支天の鞍部を越えて飛騨頂上・五の池小屋に出る道と、アルマヤ天の斜面をトラバースして飛騨頂上に出る道が分岐しますが、飛騨頂上や継子岳方面に行かず、このまま女人堂に下りる場合は、トラバース道を選びます。
白龍教会からの降り口は、標識のある場所が崩れているため、50m先に行った高台に迂回します。旧道はロープや木材で規制されていますが、間違えて踏み込む登山者が多い場所なので、注意しましょう。
このルートは遅くまで雪渓が残ることがあり、滑落しないように注意が必要です。
あとはキバナシャクナゲやハクサンイチゲの咲くお花畑があり、三の池を見下ろす楽しいところです。トラバースの途中に三の池へ下りる道があり、急な斜面をぐんぐん下って三の池畔に出ます。
三ノ池→飯森駅 約2時間/飯森駅→三ノ池 約2時間30分 |
このルートは雪渓の残る沢が崩れ、落石事故が起きています。注意してください!
鳥居と避難小屋がある湖畔は開田頂上といい、御嶽教信者から御神水と崇められる三の池の水を汲む聖地です。三の池は酸性度が強いことから腐ることがなく、夏のシーズン中は白装束の信者や、ほら貝を吹く山伏で賑わう場所のひとつです。
三の池で開田口登山道を分け、女人堂への表示に従って下りていきます。
御嶽山の山腹をトラバースしていく道で、ほとんど高低差のない平坦な道のりが続きますが、いくつか沢を横切る場所では石段や木のハシゴがあってストンストンと高度を下げます。沢には夏遅くまで急な雪渓が残り、横切るのに神経を使います。また、これらの沢は上部が崩壊して落石が多発しています。登山者の死亡事故がありますので、通行には十分注意をしてください。
継子岳のハイマツ樹海を振り返りながら、ナナカマドに囲まれた道をひたすら歩いていきます。目標の女人堂はなかなか現れず午後遅くなるとロープウェイの時間も気になりますが、ふいに8合目女人堂の前に飛び出します。
あとは樹林帯に入り、石根を踏む道をたんたんと下って7合目行場小屋、ロープウェイ飯森駅まで40分ほどです。
長野県木曽町の木曽温泉から御岳ロープウェイスキー場に通じる御岳ブルーラインに入ります。森の中の一軒宿である鹿の瀬温泉を過ぎ、ヘアピンカーブを繰り返しながら高度を上げていくと、御嶽山の全容が迫って、御岳ロープウェイ鹿の瀬駅の駐車場に到着します。
ロープウェイ駅の上方にも道路が延びていますが、これは黒沢口6合目の登山口・中の湯温泉まで通じるもの。ロープウェイを使うと7合目手前までショートカットできますが、あくまで歩きとおしたい場合は、一軒宿の中の湯温泉まで行くのがよいでしょう。
ちなみに、中の湯へは、御岳ブルーライン、倉越スカイライン、霊峰ラインという3つの山岳道路が通じており、いずれも御嶽山の眺めが素晴らしい道路です。
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