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御嶽山は北アルプスの最南端、飛騨と信州の国境にそびえる独立峰です。
剣ヶ峰3067mは日本第14位の標高を誇り、端正な山頂部から長い尾を引いた裾野は東西南北にそれぞれ30数kmに及んで、一つの山としては日本で最大の山塊です。その山ふところには、森林地帯をめぐる深い谷と、いくつもの滝、そして、火山の恵みである温泉が秘められています。
御嶽山は、剣ヶ峰3067mを頂点に、東西1km、南北には4kmに及ぶ長い山頂部を形成しています。
剣ヶ峰、摩利支天、継子岳、継母岳の主要な4峰に加えて、飛騨頂上、王滝頂上、開田頂上、アルマヤ天、三笠山といった支峰を持ち、一ノ池から五ノ池までの5つの火山湖、カルデラ原である賽の河原があります。
火口湖では、二ノ池は標高2900mで日本最高所の湖であり、深さ13mの三ノ池は御嶽山最大です。剣ヶ峰の南側には噴火口があり、地獄谷と呼ばれる壮絶な崩壊地が口を開いています。いくつもの噴気孔から水蒸気が上がり、御嶽山が活火山であることを思い知らされる光景が広がります。
約74万年前、北アルプスの火山群が活発化したのと同時期に、御嶽山も噴火活動をはじめ、マグマを噴出しました。摩利支天を最高峰とする古御嶽山は標高3500mもあり、噴火口はひとつで、富士山のような美しい円錐形をしていたと考えられます。
約11万年前、山頂部一帯を吹き飛ばす大噴火が起こります。古い御嶽山の斜面は、摩利支天や王滝頂上、継母岳に残るだけで、中央部には直径2.5kmに及ぶ大きな陥没地(カルデラ)ができました。
その後、三ノ池火口が噴火し、一ノ池火口が噴火して、御嶽山は二重式の火山になっていきました。山腹でも噴火が起こり、三笠山と小三笠山が寄生火山として盛り上がってきました。
5万年前には四ノ池火口が大噴火して、北斜面に溶岩を盛んに流し、富士山に似たコニーデ型の山容をつくりました。御嶽山の北端に位置する継子岳は、大きく裾野を広げた様子が「日和田富士」と称されています。谷が発達せず、南の峰々に比べて山容が崩壊していないのは、継子岳が若い火山である証拠です。
5万年前の大噴火では、溶岩が谷間を17kmも流れ下って山麓の小坂付近にまで達し、「巌立」の大岩壁をつくりました。2万年前、一ノ池火口が噴火して中央火口丘をつくりました。現在の剣ヶ峰です。
最後に山頂付近で爆発があり、地獄谷が大きく崩壊しました。
2万年前からは活発な火山活動がなく、歴史上に活動歴のない死火山だと思われていた御嶽山ですが、昭和54年(1979)に噴火して人々を驚かせました。
日本のほぼ中央に位置する御嶽山では、植物の垂直分布を最も典型的に見ることができます。山麓には豊かな「木曽五木」の森林地帯があり、標高2000mあたりの亜高山帯の針葉樹林、森林限界以上の高山帯に広がるハイマツ原や高山植物のお花畑など、標高に従って変化する多彩な自然を観察できます。
御嶽山はヒノキ科の針葉樹の生育に適した環境があり、昔から、ヒノキ、サワラ、ネズコ、アスナロ、コウヤマキは木曽五木と呼ばれて貴重な森林資源となってきました。飛騨では天領、木曽では尾張藩の管理下に置かれ、「木一本、首ひとつ」というほど厳しいものでした。
戦後、無尽蔵といわれた御嶽山の大森林は、チェーンソーや交通の発達によって、瞬く間に皆伐されてしまいました。現在はヒノキやカラマツの人工林が目立ちます。しかし、一部に伐採されずに残された原生林を見ることができます。
御嶽山麓の日和田高原、秋神高原、開田高原などには、みごとな白樺林があります。明るい草原に白樺林が続く風景はいかにも高原地帯といった感じがします。
白樺は陽樹といって、太陽を好み、日陰では生育できない樹木です。火山周辺の溶岩台地や、自然の崩壊地のような場所に種子が落ち、一斉に生えてくることで、あのみごとな白樺林をつくります。しかし、白樺林の中では、もう新しい白樺が生長することはできません。日陰に強いミズナラや針葉樹が大きくなると、暗い森に変わっていきます。
御嶽山に白樺林が多いのは、針葉樹が伐採されて放置されたためで、人間がつくり出した風景ともいえます。
御嶽山の2000m地帯には、亜高山帯の森林が広がっています。シラビソ、トウヒ、コメツガ、オオシラビソなどの大木が茂る針葉樹林です。林床には、ゴゼンタチバナやカニコウモリ、ヨツバシオガマ、ツバメオモトといった小さな花が見られます。
標高を上げると、針葉樹の樹高もだんだん低く、まばらになり、ダケカンバの林やナナカマドの潅木林に変わります。秋の紅葉で山肌が真っ赤に染まり、美しい光景を見せるのは、このあたりです。
御嶽山はハイマツの樹海がよく発達しています。高山植物は火山性の赤茶けた山肌が広がる南部に少なく、北部になるほど豊富に分布しています。特に見事なお花畑は、三ノ池を見下ろす斜面と、四ノ池別天地、五ノ池畔で、多くの種類の花を見ることができます。
御嶽山の高山植物を代表するのが、キバナシャクナゲとコマクサです。どちらも飛騨頂上から継子岳にかけて分布し、7月上旬のキバナシャクナゲが咲く頃は本当にきれいです。コマクサは、かつて薬草として乱獲され、絶滅の危機に瀕しましたが、五の池小屋の保護の努力で見事な群生地が復活しました。
御嶽山高山植物図鑑
御嶽山に生息する動物のうち、哺乳類は36種類が確認されています。主なものは、ニホンザル、ツキノワグマ、イノシシ、ニホンカモシカ、ニホンジカ、オコジョ、ヤマネなどです。ニホンザルはパノラマラインをはじめ、山麓の県道を走っていても本当によく見かけ、木々に猿の集団が鈴なりになって威嚇してきますが登山道には出てきません。
熊は濁河温泉の登山口である里宮付近に出没します。登山にあたっては熊鈴やラジオを鳴らすなど、熊と鉢合わせする危険を避ける対策をしましょう。また、県道尚子ロード沿い、胡桃大滝周辺の山林にも生息していますので、山菜取りなどで入山するときは注意が必要です。
高山帯に棲むのはイタチに似たオコジョで、小さくてかわいい姿をしていますが、その本性は肉食獣そのもので、ウサギ、小鳥など見付け次第に襲う山の殺し屋です。
御嶽山の飛騨頂上、継子岳、賽の河原、継母岳あたりには、いくつもの雷鳥のつがいがいます。
その名の通り天敵を恐れて天候の悪いときに動き回ることが多い雷鳥ですが、一方で人を恐れないので、御嶽山では見る機会も多く、夏場の子育てのシーズンに、親鳥にまとわりついて歩くヒナ鳥の様子は本当にかわいいです。夏は褐色の保護色ですが、冬は真っ白になります。
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