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高山市内から見る乗鞍岳は、南北に峰々を連ねて巨鯨のように横たわっています。
延々5kmに及ぶ山頂部には、最高峰の剣ヶ峰3026mを筆頭に、標高2500m以上の峰が23、高山湖が7、平原は8を数えます。
乗鞍岳は有史以来、噴火の記録ははっきりしませんが、それでも山頂部には権現池をはじめ、多くの火口や火山丘が見られます。山麓に温泉が多いこと、北東部の湯川源流部に噴気孔があるなど、乗鞍岳はまだ生きている火山です。
日本のほぼ中央に位置する乗鞍岳では、植物の垂直分布を最も典型的に見ることができます。山麓には豊かな森林地帯があり、標高2000mあたりの亜高山帯の針葉樹林、森林限界上のハイマツと高山植物のお花畑など、標高によって変化する多彩な自然景観を、バスに乗ったまま観察することができます。
特に山頂一帯には、見事なハイマツ樹海と高山植物群落があり、北アルプス有数の豊かさを誇ります。また、何万年もの間に火山活動が繰り返された乗鞍岳には、溶岩台地の境目に沿って数々の滝が流れ落ち、山麓の名所になっています。
いまから120万年前、北アルプスの火山活動が活発化すると、乗鞍岳もいくつもの火口を開いて大量の溶岩を噴出しました。
当時の乗鞍岳は、いまの何倍もある非常に巨大な山で、溶岩台地は高山市東部にまで及んでいます。その後、活動を休止した古乗鞍岳は次第に侵食されて山容が変わっていきました。高山市東部の山上には、千町ヶ原、日影平や八本原といった不思議な平原がありますが、かつての溶岩台地の名残です。
32万年前に再び活動を始めた乗鞍岳は、北から順番に噴火して次々に新しい火山をつくってゆきます。
まず北端の十石山が噴出し、続いて烏帽子岳火山体ができました。この頃は2つの火口を持つ二重式火山でしたが、時間がたつと大きく崩壊しました。その後、10万年前から権現池、高天原が噴火をはじめ、4万年前には四ツ岳を中央火口丘とする四ツ岳火山が、2万年前には恵比須岳火山ができました。
9000年前に権現池が最後の大爆発を起こして西側に溶岩を流出させ、現在の乗鞍岳の姿になりました。現在でも登山道のあちこちには、吹き飛んだ溶岩が冷える瞬間に、ガスを噴出して割れ目ができたパン状溶岩などが見られます。
有史以降の噴火の記録ははっきりしませんが、明和2年(1765)乗鞍岳の西側で爆発があり、付近一帯が泥海になったという記録があります。今でも北東部の湯川源流に噴気孔があり、火山にとって数万年の時間など、あっという間のことなので、乗鞍岳はいまだ生きているといえます。
日本のほぼ中央に位置する乗鞍岳では、植物の垂直分布を最も典型的に見ることができます。標高1500mまでの低山帯、2400mまでの亜高山帯、その上はハイマツがおおう高山帯となっています。
乗鞍岳は、標高2702mまでバスが通じています。高度によって移り変わる植物の様子を、車窓から観察してみましょう。
朴の木平バスターミナルから平湯峠にかけては、夏緑広葉樹林帯といい、ブナやミズナラ、トチの広葉樹に、イチイやヒノキが混じった森です。国道沿いでは天然林伐採後に植樹されたカラマツの人工林が主ですが、二次林の白樺林もみごとな群生地が広がっています。国道を離れて平湯峠に近づくと、豊かなブナの森が見られます。
標高1684mの平湯峠から上部は亜高山帯になります。乗鞍岳山腹をおおう森林地帯で、シラビソ、トウヒ、ウラジロモミなどの針葉樹が密生した原生林が広がっています。天を突くような大木にサルオガセがまとわりついていますが、風に乗って枝から枝へ飛び移る地衣類で、これに絡まれると大木でさえ枯れてしまう、といわれます。
亜高山帯上部には枝の曲がりくねったダケカンバの林があります。強い陽光を好むダケカンバは、樹木が茂る下では生長できません。森林限界近い、風雪が厳しい場所にはライバルの針葉樹が育たないため、ダケカンバが発達できるのです。
猫岳あたりから森林限界を抜けて高山帯に入ります。桔梗ヶ原には緑のじゅうたんのようなハイマツ樹海が広がり、高山植物のお花畑も点在しています。乗鞍岳の山頂部一帯は日本有数のハイマツ地帯になっています。
また、ハイマツは雷鳥にとって、天敵から身を守る格好の隠れ家です。乗鞍岳には、日本に生息する推定3000羽のうち、約100羽の雷鳥がいると考えられています。
乗鞍岳は、剣ヶ峰のザレ地の斜面を除くと、どこでも高山植物のお花畑を目にすることができます。花の種類が多い場所は、畳平、室堂ヶ原、不消池、桔梗ヶ原、姫ヶ原などで、北アルプス有数の花の山といえます。
最もみごとなお花畑は、畳平です。7月中旬の畳平では、ハクサンイチゲが草原を白い花で埋め尽くします。また、貴重な高山植物であるコマクサも富士見岳や乗鞍北部の砂礫地でよく目にします。
乗鞍岳高山植物図鑑
乗鞍岳に生息する動物のうち、主な哺乳類は、ニホンザル、ツキノワグマ、イノシシ、ニホンカモシカ、ニホンジカ、オコジョ、ヤマネなどです。ニホンザルは山麓の人里でも本当によく見かけますが、登山道には出てきません。
高山帯に棲むのはイタチに似たオコジョで、小さくてかわいい姿をしていますが、その本性は肉食獣そのもので、雷鳥やウサギ、小鳥などを襲う山の殺し屋です。
昆虫類では高山蝶が有名です。乗鞍岳では、高山蝶のベニヒカゲがいくつもお花畑を飛び回る姿を見ることができます。
乗鞍岳の高山帯には、いくつもの雷鳥のつがいがいます。その名の通り天敵を恐れて天候の悪いときに動き回ることが多い雷鳥ですが、一方で、人を恐れないので、乗鞍岳では見る機会も多く、夏場の子育てのシーズンに、親鳥にまとわりついて歩くヒナ鳥の様子は本当にかわいいです。夏は褐色の保護色ですが、冬は真っ白になります。
熊は登山道一帯に出没し、ハイマツ帯や森林帯で新しい熊の糞を見つけて緊張することがあります。登山にあたっては熊鈴やラジオを鳴らすなど、熊と鉢合わせする危険を避ける対策をしましょう。
また、最近では畳平バスターミナル付近の高山帯にまで進出し、パニックに陥った熊が、山頂施設に乱入して人身事故につながったケースもありました。
熊の出没状況によっては、遊歩道や登山道が閉鎖されます。情報に注意しましょう。
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