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田代橋→焼岳 3時間30分 / 焼岳→田代橋 2時間30分 |
上高地側から焼岳への登山口は、上高地道路から見て梓川の対岸、上高地温泉の南にある田代橋です。たくさんのハイカーで賑わう田代橋から一歩登山道へ入ると、さすがに行き交う人も少なくなり、不思議な静寂に包まれます。
道は最初のうちは砂防用作業道のダート林道を坦々と歩きます。ここも上高地の一角ですが、密度の濃い樹林帯に阻まれて眺めは開けません。ずいぶん平坦地を歩いて、ようやく登山道に入ると、焼岳の噴出物が堆積したクマザサの台地をゆるい傾斜で登っていくようになります。
いくつか小沢を横切って、ジグザグを繰り返しながら斜面がきつくなっていくと、左手が開けて、大地が大きくえぐられた崩壊地に出ます。焼岳の側面がざっくり削られた峠沢です。頭上はるかに焼岳のずんぐりした熔岩ドームが見えていますが、足元が崩れやすいので、あまり路肩に近づかないようにしましょう。
この辺りから本格的な胸突き八丁の急登になって、針葉樹林の小尾根につけられたジグザグ道で、一気に高度を稼いでいきます。展望も開けず息が上がって苦しいところです。道には小さな階段やアルミ梯子が現れますが、まだまだ可愛い部類です。
ふと背の高い草原が開けて、明るい場所に出たな、と思うと、目の前に切り立った一枚岩に架けられた長さ30mの梯子が出現します。
ほぼ垂直で、しかも中段から屈折しているので、下から見上げると怖い梯子ですが、取り付いてみるとそれほどではありません。慎重にやりすごしましょう。
梯子を上りきると焼岳の頂上がよく見えますが、まだまだ急斜面は終わりません。滑りやすい笹原を切り開いたジグザグの道が頭上の稜線めがけて駆け上がっていきます。息を吐き吐き足を進めていけば、登山道が稜線に近づくところで右へ逸れて行き、やや窪んだような平地を行くようになります。
到着した新中尾峠には、針葉樹林に囲まれた窪地に挟まるように、小さな焼岳小屋が建っています。北アルプス主要部のメジャーな山小屋にはない、落ち着いた雰囲気があって、時間が許せばゆっくりと朝夕を過ごしたい場所です。
焼岳小屋から直進すると、森林尾根を辿って西穂山荘まで行くことができますが、展望のない静かな尾根道で、登山者も稀な上高地・穂高山域でも「通」の山道です。
焼岳へは折り返すように、森林限界を抜けて笹原の尾根道を行きます。
小屋からすぐに焼岳展望台の小丘に立ちます。笹原に点在する熔岩の塊からは、シューシューと白い湯気が上がり、岩の隙間に手を当てると、じんわり熱く感じられます。
尾根道を辿ると中尾温泉から上がってきた登山道と合流する旧中尾峠の広場です。上高地や霞沢岳、新穂高側の笠ヶ岳の眺めのよい場所です。
かつては、ここに旧焼岳小屋がありましたが、昭和37年の大噴火で吹っ飛び、焼岳は長らく登山禁止措置が取られていました。現在では南峰を除いて登頂可能になり、北アルプス唯一の活火山として多くの登山者に親しまれています。
その旧中尾峠から、焼岳の溶岩ドームに向かって、ザラザラの崩れやすい道を登っていきます。足を乗せるたびに浮石や砂地がグズグズと崩れる気持ち悪いところで、なかなか思うように進めません。石を落とさないように、また、上を行く人が落とした落石に当たらないように、気をつけて歩きましょう。
ようやく焼岳本峰のコルにつくと、上高地や新穂高の大パノラマが開けて思わず歓声が上がります。ここから頂上へは約5分、岩に取り付きながら進む道で、すぐ脇には硫黄で黄白色になった噴気孔から、ジェット音と共に大量の水蒸気が吹き上がります。
地球の息吹を感じられる興味深い場所ですが、頭痛がする人もあるので、長居は無用です。ふと広い北峰頂上に飛び出せば、足元には火口湖が緑色の水を湛えて鎮まっています。
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