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バスが狭い釜トンネルを抜け、正面にごつごつした焼岳の姿を仰ぎながら上高地の平に入ってゆくと、車内から一斉に歓声が上がります。大正池が現れたのです。
青い湖面に穂高連峰が影を落とす大正池は、誰もが一度は見たことがある上高地の代表的な風景です。鴨が遊ぶ湖畔に下りて行くと、正面に焼岳がかすかな噴煙を上げ、奥には絵葉書そのままの穂高連峰がそびえています。
大正池は上高地にとって欠かせないポイントですが、「大正池」の名のとおり、大正4年(1915)に焼岳の大噴火で泥流が押し寄せ、梓川を堰き止めて1日にして大きな湖を作ってしまうまでは、この景色はありませんでした。
湖面に突き出た印象的な枯れ木の数々はその噴火の名残です。枯れ木に限らず、大正池自体も梓川上流や焼岳から流入する土砂によって年々縮小しており、いずれは消失してしまう運命にあります。
湖畔には大正池ホテルがあり、ボート遊びもできます。上高地ハイキングは帰りのバスの混雑で、大正池バス停から乗車できないことを見込んで、往路に大正池で下車し、河童橋方面へ自然観察路を歩くのがよいでしょう。 ※帰りのバスチケットを持っている方は、大正池から上高地バスターミナルに戻るために乗車するシャトルバスが無料になります。
大正池から、ヤナギなど河畔林に囲まれた湿地帯の木道を進むと、目の前がぱっと開けて、穂高連峰を背景にした草原が現れます。田代池湿原です。かつて、大正池はこの辺りまでありました。その後、土砂の流入によって池が分断され、ワタスゲなどの植物が茂る湿原になりました。
さらに乾燥化が進むと他の植物も進入して、やがて森へ還ってゆきます。田代池の名残は、霞沢岳を望む東の一部に残っています。
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