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赤い布で作った顔の丸いぬいぐるみ、「飛騨」と書かれた腹当て、頭巾を被っているのが定番スタイル。いまや「飛騨」といえば「さるぼぼ」、というくらい地域イメージが定着したマスコットです。
「さるぼぼ」とは飛騨方言で「さるの赤ちゃん」という意味。玩具がなかった昔、お母さんやお婆さんが子どもや孫のために手作りした人形で、健康に育つように、との願いが込められています。
また、「(悪いことが)去る」や「エン(縁)」にかけて、縁起物や良縁お守りとしても人気があります。
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さるぼぼは、実は古代中国の風習に由来します。
奈良時代、遣唐使として長安に滞在した留学生たちが、庚申信仰と一緒に中国から持ち帰ったのが起源だといい、吊るして飾る魔除け「身代わり申」「願い申」として定着しました。 |
中国道教では、60日に1度巡ってくる「庚申の日」には、人の体内に潜む「三尸の虫」が体を抜け出して天帝にその人の悪事を報告する、と信じられていました。すると、天帝は「天邪鬼」を派遣して、その人に病気などの罰を与えます。
そこで、人々は寝ずの番で三尸の虫が出てこないように見張ったり、天邪鬼が嫌いな猿の人形を吊るして厄除けにしました。それが「身代わり申」の由来です。
さるぼぼの赤色は、赤ちゃんを意味するほかに、江戸時代に流行った「病気は赤色を避ける」という説にあやかり、病気除けの願いを込めています。
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江戸時代まで全国にあったさるぼぼの習慣は、だんだん廃れていきました。さるぼぼが飛騨のお土産として売り出されたのは1980年頃、はじめは「顔がないから不気味」と酷評されたさるぼぼが観光客の心を掴み、じわじわと人気が高まりました。
地元の製造業者で作る組合は、さるぼぼのイメージが崩れないようにディテールを設定し、飛騨ブランドのひとつに育てました。 |
さるぼぼ人気が高まるにつれて、基本的なディテールを守りながらも、さまざまに進化したさるぼぼが登場してきました。
ぬいぐるみだけでなく、キーホルダーやストラップなど幅広い商品ラインナップがあり、赤色オンリーだったさるぼぼも、風水にちなんで金運の金色、恋愛運のピンク色などが加わって商品棚がカラフルになりました。キティちゃんなどキャラクターとコラボしたさるぼぼも、お土産店の有力な一角を占めます。
従来の「縁起物」さるぼぼの枠を飛び越えて登場した、サングラスのブラックさるぼぼが「ワルぼぼ」、なお、「ワルぼぼスナック」は痺れるほど辛い唐辛子スナックです。
形がさるぼぼの枠を飛び越えたのが、タウン誌から誕生した「ひだっち」。
手足がひょろ長く、小憎たらしい半笑いの顔をしたひだっちは、非公式ゆるキャラとして人気です。高山市が売込みをかける「おさるのくう」は孫悟空をイメージした、いたずら好きで活発なキャラクターです。
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さらに、下呂温泉のカエルを被った「げろっち」、飛騨のお祭りの獅子頭を被った「ししっち」なども「ひだっち」系列で販売されていますが、これらは、もはや「さる」の枠をも飛び越えています。
さるぼぼの形をした飛騨牛「うしぼぼ」は、畜産関係の農業イベントに出没して、美味しい飛騨牛の販売促進に一役買っています。
こうして、さるぼぼとその仲間たちは、飛騨をアピールするために、さまざまに姿を変えて活躍しています。 |
飛騨高山の飛騨国分寺・庚申堂には、使用済みのさるぼぼを奉納する掛けさるぼぼコーナーがあり、そこに「願掛けなでさるぼぼ」が安置されて、誰でも痛いところを撫でて祈願できます。
下呂温泉には、観光施設「しらさぎ横丁」の一角に「さるぼぼ七福神社」が祀られ、巨大な七色の風水さるぼぼが鎮座しています。「さるぼぼ黄金足湯」もあります。
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